にいがたの民話
おさん狐(きつね)
イラスト:林真紀子
むかーし、むかし、にいがたのむかし。
あるのどかな春の日の午後。
岡山(おかやま)の草原に、河渡(こうど)のおさん、岡山の長四郎(ちょうしろう)、青山の五平(ごへい)という古ぎつねが集まっておりました。
三びきがなにやら相談しています。
「近ごろは不作(ふさく)でうまい酒も飲めない。なにかうまいことはないかな。」
「金屋(かなや)のだんながりっぱな馬をほしがっているらしい。」
「だれかが名馬に化けて、金屋のだんなに売って、ひともうけしよう。」
長四郎がグルンっ。
ひところびして、天下の名馬に化けました。
とてもりっぱですばらしい馬です。
五平もグルンっ。
ひところびした五平は馬をひいていく人に化けました。
三びきはすばらしい考えだ、とさっそく次の日に馬を売りに行くことに決めました。
権之丞(ごんのじょう)という男、三びきの話をこっそりと聞いていました。
「この話を利用しない手はないぞ。わしがそのもうけ話をそっくりいただこう。」
次の日の朝、夜も明けないうちに、権之丞は長四郎の寝床(ねどこ)にやってきました。
「さあ、長四郎、でかけるぞ」
急に起こされた長四郎、五平の声がいつもとちがうように思いましたが、たしかにきのう約束したとおりだと、ぐるりとひところびして、すばらしい名馬にばけました。
ひとりといっぴきは金屋のだんなの家にむかって出発しました。
化け名馬の長七郎、自分をひいている男がまるでほんものの人間のようなので、「五平、おまえもなかなか化け方がうまい。」とたいそう感心していました。
ひとりといっぴきは、やがて金屋のだんなの家につきました。金屋のだんなは一目で化け名馬を気に入ってしまいました。
「おい、この馬はいくらだね。」
「じつは、めずらしい馬で、150両なのですが、今日はとくべつにおまけして、100両でいかがでしょう。」
金屋のだんなはふたつ返事でこの化け名馬を買いました。
さて、100両を手にした権之丞、「こんなにうまくいくと思わなかった。長四郎のなかまたちが追いかけてくる前に、にげるぞ。」
すぐに家に帰ってしまいました。
そのころ、長四郎はうまやにつながれて、
おさんと五平がむかえにくるのを今か、今かと待っておりました。
権之丞の悪知恵に気がついた五平、化け名馬のところにやってきました。
「おい、長四郎、おまえはまったくのばかものだ。
われらが人間を化かそうとおもっていたのに、反対に人間にだまされるとはこまったことだ。」
長四郎と五平の二ひきは大いそぎで、おさんの待っている岡山の草原にもどりました。
「おお、くやしい!」
「なんとかして権之丞から100両をとりかえそう。」
「権之丞をとっちめてやらないと。」
「とにかく、権之丞のところに行こう。」
100両を手にした権之丞、「あの三びきは有名な古ぎつね。このままではすまされないぞ。仕返しされないようにしなくては。」と三びきの仕返しからうまくのがれる方法を考えておりました。
「そうだ、きつねは油がすきだというから、油でよわせてしまおう。」
権之丞はてんぷらをあげはじめました。
権之丞のところにやってきた三びきの古ぎつね、
あたりにただよう油のにおいに、すっかりいい気分になっています。
三人、いや、三びきがゆらり、ゆらりとこちらに向かっているのを見つけた権之丞、
「しめしめ。やってきたな、古ぎつね。」と思いながら、三びきにむかって言いました。
「おや、お客さん、どうぞおあがんなさい。今、てんぷらをあげているんですよ。」ときつねたちを家にまねきいれました。
権之丞は三びきにてんぷらをたらふくごちそうしました。
三びきの古ぎつねは、仕返しにきたことなどすっかりわすれてしまっておりました。
「いやあ、すっかりごちそうになりました。ほんとうにありがとうございました。」
三びきは、権之丞にていねいにお礼を言い、とてもいい気持ちで家に帰っていきました。
またもや三びきの古ぎつねは権之丞にしてやられてしまったのでした。